TREASURE DATA "PLAZMA" 2018 イベント報告

データ活用の攻め・守りと、パブリッシャーのデータ活用のポイント

2018年は、EUのGDPRに始まり、日本の個人情報保護法や米国カリフォルニア州のCCPA(カリフォルニア消費者プライバシー法、2020年施行予定)と、個人情報の取り扱い、とりわけCookie情報の取り扱いに関する指針が示されるなど、規制がより一層強化される年となった。こうした個人情報に関する規制の流れは世界各国でも盛んであり、しばらくはパブリッシャーや代理店を筆頭に、各業界にとってホットイシューになると考えられる。

だが、そうした動きに対し、ただ「守り」だけに専念していては業界全体の成長は果たせず、経済全体への貢献も果たせない。適切な方法でデータを活用し「どう攻めるか」を考えることこそが、突きつけられた課題の本質だと理解したい。

では、実際にどのようにその解を導けばいいのか? ここでは、2018年11月30日(金)、秋葉原で開催された「TREASURE DATA "PLAZMA" 2018 in Digital Belt AKIHABARA」で行われた2社のセッションについて論じる。

データ提供先の情報を示すことで媒体価値を担保する

大手SNS企業が大量の個人情報を第三者に提供していたことが明るみになったことで、ユーザーは「自分の個人情報はどのように管理・利用され、どこに提供されているのか?」についてより意識するようになっている。

株式会社DataSignの代表取締役である太田祐一氏は、この流れを「webサービスにおいて、透明性をきちんと確保するように求められる風潮が高まっている」とした上で、自社が提供している「データサインFE」のコンセプトを次のように語った。

「『データサインFE』は、いつも見ているwebサイトや自身が運営しているwebサイトのURLを入力してスキャンすると、どこに通信が発生しているか、つまり、どこにデータを提供しているか、もしくは委託しているかを一覧表示できるサービスだ。多くのwebサイトには、プライバシーポリシーやCookieの取り扱いポリシーが示されているが、実際にはそこに指定されている以外にもデータが流れている場合が散見される。そして、その事実をサイト運営者自身も把握できていない場合が多い。『データサインFE』はそうした状況を改善するソリューションだ。

これで把握したデータ送信先をサイト上に示せば、webサイトを訪問したユーザーに対して十分な説明責任を果たせるようになるだろう」


こうした取り組みを行うことは、世の中の期待に応えることになり、価値毀損を未然に防ぐ役割を担うことになるはずだ。特に、パブリッシャーサイドは、運営するサイトに集うユーザーからの信頼を勝ち取ることに繋がるだろう。


他方、太田氏はこうした「守り」の取り組みだけでない論点について、「世界では、個人が自分のデータを自分でコントロールをして自分の判断でそれを提供し、便利なサービスを享受するという方向性も必要であると議論されている。その一例がEUの『マイデータ』という考え方で、これは日本でも議論されているものだ。

また、米国ではGAFAがデータを握るのではなく個人がコントロールできるように、とのことで、情報銀行の議論も進んでいる。日本でも、関係省庁やID団体連盟が主導し、情報銀行の推進を目指している」と、ユーザーによる主体的な個人情報のコントロールと活用のあり方についての現状について述べた。

パブリッシャーサイドはどうデータを活用するか?

ここまで述べてきた通り、Cookie情報を始めとするパーソナルデータの取り扱いは、法規制とユーザーの信頼性担保の両面で極めて難しい舵取りが求められる。だが、デバイスの向こう側にいるユーザーの行動はパブリッシャーサイドにとって「価値創造の源泉」ともなるものだ。特に、広告出稿が全般的に不振と言われる今日、自社が運営するメディアの特性を示すことは、広告主に潜在価値を示すことになり、出稿を決定させる説得材料にもなるだろう。


そのためにも、まずは様々なサーバーに蓄積される各種データを一元管理し分析できるようDMP(Data Management Platform)を導入し、環境を整えようとする動きがトラディショナルなメディア企業にも広がっている。


1922年に創業し、『DIME』や『BE-PAL』『サライ』といった雑誌や、『下町ロケット』など話題の書籍を数多く出版する株式会社小学館もまた、独自のDMP「コトバDMP」を導入したパブリッシャーのひとつだ。

同社のデジタルメディア営業センターに所属する河村英紀氏は、その背景と効果について、「DMP導入の目的は、データを活用したwebメディアの運営とグロース実現、そしてネット広告ビジネスをスケールさせていくことだ。過去5年間、小学館の広告ビジネスは厳しい状況が続いていた。これは、昨今の出版社の多くが直面している現実だと言える。しかし、小学館では今年に入ってプラスに転じるようになった。メディアやコンテンツが持つ信頼性が評価されてのことではないか、と肌で感じている。

ネット広告の売上比率も2014年と比較して4倍以上になり、売上全体は昨年対比で140%と大幅に伸びてきている。これらの変化は、2017年度に大幅な組織改編やサイトリニューアルなどを行い、データ活用にも注力したことが功を奏したのだと考えている」との見方を示す。

小学館のDMP活用
〜データ・ドリブンでメディアを展開し、グロースを目指す〜

順調な滑り出しを見せる小学館のDMP導入とデジタルシフト。現在、収益メディア(月1円でもマネタイズしているwebサイト/アプリ)の数は32媒体にのぼる。これは小学館の規模からすると、かなり大規模だと言えよう。

そのため「収益メディアを一元化させないでいるのは非効率ではないか」といった声を耳にすることも多々あるという。しかし、河村氏は、パブリッシャーサイドのメディアに対する想いについて、次のように説明する。


「まず、我々はそれぞれの雑誌と雑誌ブランドにロイヤリティーを感じてくれている読者やファンをとても大事に考えている。だから、メディアブランドを束ねて、まとめて運営する、といったことは基本的には考えていない。webメディアの元である雑誌というのはターゲットメディアであり、バーティカル。つまり、ジャンルに特化しているという特徴がある。だから、それをまとめて運営することはそうした雑誌の良さを消してしまうことになりかねない。

いわゆるトラディショナルな出版社でもデータ活用が無視できなくなっていることは周知の通り。そういった中でDMPを導入することによって、データ・ドリブンな運営を心掛けて、webメディアのグロースとマネタイズを実現してきたいと考えている」


では、そもそもwebメディアのグロースとはどういったことを指すのか? そこにどうDMP導入の価値を反映させるのか? 他のパブリッシャーも含め、疑問を感じるところだろう。


「小学館の各webメディアの分析は、基本的にはGoogleAnalytics(以下GA)を用いている。だが、それだけでは見えない部分もたくさんある。たとえば、職業や年収といった情報はGAでは取得できないが、バーティカルなメディアである以上、知りたい情報でもある。この部分をDMPで補足し、サイト訪問ユーザーの属性をしっかり把握し、各サイトの改善のためのPDCAに取り組んでいる。

ネット広告によるマネタイズをする上で、規模感は必要不可欠だ。しかし、もともと小学館のwebメディアの多くはバーティカルなメディアであるため、どうしても限界がある。無理に実現しようとするとメディアの良さは薄れてしまうと考えている。そういった意味では、我々は届けたいユーザーをしっかり見定め、そうしたユーザーたちにきちんとコンテンツを届けるために、DMPを活用している」と、河村氏は自社のDMP利用の方針を語った。

DMPを活用したマネタイズの道筋

小学館の河村氏は、webメディアのグロースがあってこそマネタイズが叶う、としている。では、DMPを活用したマネタイズの方法には、どのようなアプローチがあるのだろうか? 

小学館とともにメディアの価値最大化と収益化を目指すCCIの丸田健介は、小学館「コトバDMP」を用いた広告商品のサービス化とデータを活用したアプローチによるユーザーの態度変容効果について、次のように語る。


「小学館では、数多くのデジタルメディアを運用している。そこでのユーザーの動きを把握すること、特にキーワード単位でデータを収集して集計を深めていくというところは『コトバDMP』の特徴のひとつに挙げられる。これを元に、プランニングや広告配信分析レポートの作成等に拡げていけるだろう。


実際に、タイアップを展開する際、プロモーションしたい商材にマッチするユーザーというものを『コトバDMP』を用いて抽出することで、より精度の高いアプローチができると考えている。商材に関するキーワードと、それが書かれている小学館のwebメディアの記事をマッチさせ、商材と関与度が高いユーザーをDMPでターゲティングして来訪を促し、態度変容に繋げていくよう道筋を立てられると考えている」


続けて丸田は、こうした取り組みを実施した後のレポーティングについて、

「実際にタイアップページを訪問しているユーザーは、こういう商材に興味を持っている、もともとの訴求内容に対して関与度を見ると別の商材の方が関心度が高い、といった新たな発見が得られる場合もある。今までDMPの分析レポートというと一般的にはやはりユーザー属性や興味関心にフォーカスされてきたが、小学館の場合、豊富なコンテンツデータとバーティカルなメディアを運営しているからこそ蓄積された専門的なコンテンツのキーワードのデータを最大限活用できると見ている。

今後はキーワード単位での分析など、より付加価値の高いレポーティングも行っていきたい」とした。


小学館のファーストパーティーデータ、つまり『コトバDMP』の独自性や価値を引き出すことで、同社の一番の資産であるコンテンツ、ひいてはそれを生み出す編集者をエンパワーメントしていく、ということだ。

データ活用ができる時代にパブリッシャーがもたらす新たな価値

最後に、河村氏は様々なデータがこれまで以上に活用できるようになったことに伴う責任と、パブリッシャーとして譲れない想いについて、次のように総括した。


「個人情報を取り扱う際に透明性を担保することは、時代の要請となっている。これはパブリッシャーであっても当然取り組まなければいけないことだ。我々もCCI社と一緒になって取り組んでいる状況だ。

それに加え、これまでの出版活動で培ってきたコンテンツ制作力、雑誌ブランドや読者コミュニティといった様々なアセットを広告主の皆様にもご活用いただけるようなソリューションの提供も準備を整えた。従来の広告企画では『我々の雑誌でこういう特集があるのでいかがですか』というふうに媒体社起点で提案していたが、今後、「小学館ライフスタイルブランドスタジオ」として提供するサービスでは、企業が抱える課題に対して、我々のメディアやソリューションで解決する方法を提案し、広告主にとっても価値のある施策の実現とその効果検証に貢献していきたいと考えている。2018年11月初旬にこのサービスをリリースしたところ、多くの反響があった。こうした手法が求められている証拠だと考えている。

こういった取り組みにはデータが重要な役割を果たすが、我々はパブリッシャーであり、コンテンツ制作力や編集者の企画・アイデア・インスピレーションといった最も重要なアセットをないがしろにすることはできない。データで導かれた答えに勝るようなビックアイデアは、そこから生まれると考えているからだ。データ・ドリブンであることと実際の企画編集力をうまく掛け合わせることによって、自分たちの独自の価値を生み出せるのではないかと考えている」

関連するサービスページ

CONTACTお問い合わせ

サービスに関するお問い合わせはこちらから

mediadock@cci.co.jp